2018年9月のアメリカ不動産マーケット
アメリカの不動産マーケットは、数ヶ月前から上昇の勢いが徐々に鈍くなってきています。サブプライム問題で2009年に大底を打ってから一直線に上昇をしてきましたが、9年目にしてさすがに失速してきたようです。
細かく見ていくと、7月ごろから$1.5mm以上の高額価格帯でBuyerの動きが鈍くなり始め、オリジナルのOffer Priceでの成約が減り、Seller側も10万ドル単位の値引きを強いられることが増えてきました。
8月に入ると75万ドル以下の物件でも、成約するまでの期間が徐々に長くなり始め、成約率が若干下がり始めています。
75万ドル以下の価格帯は、First Time Buyerといわれる初めて不動産を購入する人たちが購入する価格帯なので、一定の需要が常にあるはずですが、その人達の買いの手も若干鈍くなり始めてきたようです。
現在の不動産価格は、全体的に見るとサブプライム前のピークのレベルの前後までは戻ってきているので、チャート的には前回の高値と同レベルに達しているので、少なくとも短期的にはもみ合いになるのでしょう。
不動産価格は株式市況との相関が高いのですが、株式市場が2018年1月に直近高値をつけた後、もみ合い相場に入ってきているので、この夏からの不動産市場の頭打ちも妥当な動きかもしれません。
株式市場も過去の右肩上がりの一本調子ではなくなってきているので、不動産市場も、来年にかけて、さらに調整局面が続いて下落していくのか、しばらくもみあったあとに再び上昇していくのかは、不動産関係者の間でも見方は別れています。
モーゲージ金利上昇の影響は?
今後の不動産市場に弱気な見方をする人は、モーゲージ金利の上昇を一つの理由に上げています。
アメリカ人が不動産購入時に使うローンとしては、30年固定金利での借り入れが一般的です。
アメリカの不動産融資は日本とはかなり事情が異なります。「コツコツと返済して30年後に晴れて100%自分の家!」 というような融資全期間に渡り返済を続けていくことはまずなく、5~10年後に買い替えのために物件を売却し、そのときに残債をまとめて返却するのが一般的。
「売るときに価格が下がっていてローン担保割れしてたらどうするの?」
とツッコミが入りそうですが、アメリカはインフレの国なので基本的に不動産価格は右肩上がりで、中長期で保有したときに物件価格が下がっているとはほとんどのアメリカ人は想定していません。
万が一、そんなことが起こってもアメリカの不動産融資制度はノン・リコース・ローンなので、物件を手放せばローンの返済義務はなくなります。よって家がないのにローンの支払だけが残るということはありません。
その分、ノン・リコース・ローンでは、物件を購入時の融資審査はより厳しいものとなり、より高い返済能力を求められます。一般的には収入に占める返済比率が30~40%くらいが融資可能額の上限となり、その収入も複数年継続していることの証明が必要となります。
より多い融資金額を査定してもらうためには、より高収入が必要となることは間違いありませんが、意外にローン金利の高低も融資可能額に大きく影響してきます。
2018年9月末時点で30年固定金利は約4.75%となっています。年収12万ドルの家庭であれば、月収は1万ドルとなり、その35%(例として)である3,500ドルが返済額の上限となります。この場合は、融資可能金額は、約$671,000となります。(実際は固定資産税や火災保険及びその他の既存ローンも含まれるので、融資可能額はさらに少ないものとなります。)
もし金利が0.50%上昇して5.25%となったら、融資可能額は約$634,000に下がります。約4万ドルほど価格の低い物件でないと購入できないことになります。
過去数年間のアメリカ市場の動きを見ると、不動産の物件価格も上昇し、市場金利も上昇してきました。
ということは、Buyerの立場としては物件価格は上昇してきているのに、自分が融資を受け購入できる物件価格の上限は、年々下がってきていることになります。
Buyerの方の年収や給与も年々上昇はしているのでしょうが、金利上昇分を相殺する数万ドル単位で昇給している方は少ないでしょう。さらに物件価格も上昇しているわけですから、年とともに物件を購入できる人が限られてきていたわけです。
不動産の購入可能性の高低を表す指標に”Affordability Index”がありますが、見ての通り年々下落を続けて直近ではカリフォルニア州では26%と過去最低レベルまで下がっています。(これは不動産を購入できるのは26%の人に限られ、残りの74%は現状の水準では不動産の購入ができないということを表しています。)
日本の不動産マーケットと比較すると?
日本では不動産業界の話というと、「物件価格が上昇するどころか下落するエリアのほうが多い」とか「物件価格の上昇もオリンピックまでか?」とか価格に関する話題が主です。
日本で融資金利の水準による融資可能金額についての話題が出てくることはほとんどありません。もっとも日銀がゼロ金利政策を消費税増税をする2019年10月までは少なくとも確約しているので、それまで低金利が続く予想であれば当然かも知れませんが。
購入者側の立場で見れば、日本のような低金利では融資可能金額が大きく取れ、不動産購入には優位な立場になれます。
仮に上記の例で、融資金利が日本の水準である1%と仮定したら、融資可能金額は100万ドルを超えます($1,088,000) 実に約1.5倍も融資可能額を増やすことができます。
それほどアメリカの金利水準と比べると夢のような水準であるにもかかわらず、日本では不動産購入に拍車がかからないないのは、中長期的に不動産価格の下落を想定している人が多いからでしょう。(黒田日銀総裁も「2%のインフレターゲット」を目指す政策で価格上昇を狙っていますが、人口の減っている日本ではそのシナリオを描けるようになるには、まだ材料不足でしょう。)
では大家さんのような投資家目線ではどうでしょう? 投資リターンは高いほうが良いので、日本の低金利は投資家にとっては逆風です。なおかつ不動産価格が中長期的に下落する見込みであれば、不動産投資に妙味を見つけるのは難しくなります。
よってキャピタルゲインが期待できないので、キャッシュ・フロー重視の投資戦略となってしまうのは致し方ないことなのかもしれません。
ここ数年、日本の投資家も海外で不動産投資をされる方が増えてきました。節税を目的とするケースが多いようですが、中長期保有でじっくりとキャピタル・ゲインを狙っていくのも良いのではないでしょうか。アセット・アロケーションとしてもいいと思うのですが。
この記事へのコメントはありません。